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第69回高知産科婦人科学会学術集会(2019.12.14) 一般演題

演題:赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」4年目の当院の取組みと母乳率

所属機関;高知ファミリークリニック   

演者:福永寿則、山田るりこ

 

高知ファミリークリニックは開院10年目の2015年に「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」に認定され、4年目の今年は認定継続のための再審査があり、無事BFH認定継続となりました。 そこで、現在の当院の取組み、産科データ・母乳率、また、抄録には記載していませんがEPDS陽性率との関係につき発表いたします。


 2018年の分娩数は427件。初産婦41%、経産婦59 % 。産婦の平均年齢は、初産婦 29.1歳、経産婦 32.1歳、40歳以上は 9(2.1%)でした。帝王切開は44(10.3%)です。
 母乳率検討の対象は、2018年出生の健常新生児391例です。

 当院の基本的な取り組みは、①ソフロロジー式分娩法、②家族立会分娩・産後の家族同室、③母乳育児支援、④メンタルヘルスケアの4つです。

 入院中の栄養法は、入院中の全期間を通して1回も糖水や人工乳を与えていない母乳のみが75.2%、糖水のみ補足11.8%、人工乳補足13.0% でした。

 退院時の栄養法、これは退院直前の24時間の栄養法ですが、母乳のみが86.7%です。

 1カ月健診時の栄養法、これは1カ月健診までの1週間の栄養法ですが、母乳のみが84.9%、人工乳を補足している混合栄養が14.8%、人工乳のみが1例(0.3%)でした。

 
 さて、「母乳育児は良いかもしれないが、母乳育児ができない母親を追い詰めてはいけないので、母乳育児推進を強調するのは良くない」、 現在、産後の母親のメンタルヘルスケアも非常に重要となっていますので、このスライドのような心配をされる方も多くいます。そこでそのような観点から検討しました。

 今年、厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」が改訂されました。
「母子にとって母乳は基本であり、母乳で育てたいと思っている人が無理せず自然に実現できるよう、妊娠中から支援を行う」とあります。母親が無理せず自然にできるためには、医療者側はかなり頑張って支援の体制を作ることが必要です。

また、「母子の健康等の理由から育児用ミルクを選択する場合は、その決定を尊重するとともに母親の心の状態等に十分に配慮し、母親に安心感を与えるような支援が必要である」とあります。母親に負担感・挫折感を与えない寄り添った支援が必要です。

「混合栄養の場合:母乳が少しでも出るなら、母乳育児を続けるために育児用ミルクを有効に利用するという考え方に基づき支援を行う。母親の思いを十分に傾聴し、母子の状況を見極めた上で、育児用ミルクを利用するなど適切に判断する。」とあります。 要するに、画一的な指導ではなく、個々の母子の状態を把握し、それに応じた個別的な支援が大事になります。

当院もこのような考え方で、母乳育児支援を行っています。

 そこで、当院の母乳育児支援と産後うつ病自己調査票(EPDS)陽性率との関係につき検討しました。対象は201812月から201911月の間に当院で分娩した375例中、妊娠中期および産後1カ月健診時にEPDSで評価している 314例です。健常新生児以外の母子も含んでいます。

 これは1カ月健診時の栄養法とEPDS陽性率の関係です。母乳のみの母親はEPDS9点以上の陽性率は 1.6 %でした。一方混合栄養の69例は8.7%であり、約5倍となっています。すなわち、1カ月健診時母乳のみの母親は、混合栄養の母親よりもEPDS陽性率が約1/5に低下しています。

 次に、それでは「高知ファミリークリニックの母乳育児支援は母親に負担をあたえているか?」について検討しました。

 妊娠中期のEPDS陽性率は 5.7% です。有意差は出ませんでしたが、1カ月健診時のEPDS陽性率は3.2% と減少傾向がうかがわれます。

 また、1カ月健診時のEPDS陽性率を他の施設と比較しました。当院 3.2%に対し、文献では 15%、あるいは13.4%であり、当院より4から5倍高い値でした。以上から、当院の母乳育児支援は、産後の母親がうつ傾向になるリスクを減少させると思われました。

したがって、先ほどのような心配は杞憂であり
母乳育児支援を、画一的な母乳栄養の押し付けではなく、「母による乳児の育児を支援」ととらえた、適切な母乳育児支援は産後のメンタルヘルスケアにも大きく寄与すると思われました。

 

 

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