赤ちゃんに湯冷ましや果汁は不必要
高知新聞「声ひろば」 2005.5.8
福永寿則(産婦人科医)
母乳や人工乳を飲んでいる赤ちゃんには、湯冷ましや果汁を与えなければならないと思っている方もまだ多いと思われます。しかし、それは誤った知識なので、そのことをお知らせしたいと思います。
以前の人工乳は牛乳に似て蛋白質やミネラルが多かったため、人間の赤ちゃんには濃すぎると考えて、水分を補うために湯冷ましが必要とされました。また、鉄やビタミンCが十分には含まれていませんでした。ビタミンCが不足すると鉄の吸収が悪くなり赤ちゃんが貧血になります。そこで、ビタミンCを補うために果汁が必要とされたようです。
しかし、現在の人工乳では蛋白質やミネラルの濃度は母乳に近くなっていますし、ビタミンCも十分添加されていますので、湯冷ましも果汁も不必要です。また、母乳中の水分は88%もあり水分量としては十分ですし、鉄の吸収率も人工乳の4%に比べて49%と高く、母乳では湯冷ましや果汁はもともと不必要です。
赤ちゃんは果汁(糖分11%)のような甘いものに慣れると母乳や人工乳嫌いになり、また薄味の離乳食も嫌がるようになります。果汁を飲んだ分空腹感がいやされ母乳や人工乳の摂取が減少し、どんどん発育している赤ちゃんの身体を作る大事な蛋白質やミネラルなどが不足する、高い糖分は小腸に負担となりお腹をこわすもとになる、果汁を飲ませ過ぎると低身長になる心配がある、などと言われています。
アメリカ小児科学会は2001年に母乳、人工乳を問わず、「生後6ヵ月までは決して果汁を与えてはいけない」と勧告しています。
(参考文献:母乳育児支援アンサーブック、メディカ出版、p180-181、笠松堅實)